2020–2025年 秋冬ウィメンズ素材トレンド
年次レビュー&総合分析AW
本レポートは、2020年から2025年にかけての秋冬シーズンにおけるウィメンズ素材の潮流を、グローバル視点と日本市場の文脈で編年的に整理。各年のハイライトとともに、サステナビリティ/テック、ハイエンドとマスブランドの使い分けの差異までを横断的に読み解く。

レポート概要
2020–2025年の秋冬ウィメンズ素材は、光沢ラグジュアリーの復権、居家コンフォートの深化、クラシックの再解釈、そしてサステナブル/機能素材の台頭という多層の波で推移。各年のトレンドを年順に概観したのち、ハイエンドと大手マスブランドの素材運用を比較し、最終章で横断的に総括する。
2020秋冬:光沢ラグジュアリーとレトロな心地よさの共存
光沢素材の回帰
ランウェイには艶をまとった素材が席巻。なかでもサテン(シルクサテン)は主役級で、スーツ、ドレス、シャツまで横断的に採用。フォレストグリーン、トゥルーレッド、バターイエローなど、冴えたカラーが秋冬に鮮度を与えた。メタリックやスパンコールも日常へ浸透し、「毎日を輝かせる」ムードへ。
ベルベット&コーデュロイ
柔らかい起毛感とほのかな光沢を持つベルベット/シルクベルベットが復活。濃紫・黒・ボトルグリーンなど深色でロマンティックに。コーデュロイも注目度が高く、ワイドパンツやセットアップでノスタルジーを喚起。日本ではPremière VisionのレポートでもAW20/21のキー素材としてコーデュロイとチェックの推奨が示され、プレッピー回帰を後押し。
ファー&レザーの躍進
寒季に入り、シアリング(ムートン/ボア)コートが世界的に拡大。保温性とスタイル性を両立する「レザー×ボア」のコンビが人気に。動物福祉の観点からフェイクファーが台頭し、Balenciaga等がボリューム襟のフェイクファーコートを提示。真革/合皮ともに黒や宝石色が多用され、ライダースやトレンチ、スカート/パンツで存在感を示した。
実用とサステナブルの両立
パンデミック初期の空気感を受け、キルティングや厚手ニットなど「家でも外でも心地よい」機能が重視に。リメイクやパッチワークは循環志向を象徴し、手仕事の温もりを付与。華やかさと素朴さが同居するシーズンとなった。

高光沢のサテンやラメ、スパンコールが象徴的。2020年の「光沢回帰」を端的に体現するルックで、デイリーウェアへのメタリック浸透を促した。
2021秋冬:居家コンフォートと幻想ロマンの交差
ホームコンフォートの拡張
在宅時間の増加を背景に、肌あたりのよい起毛素材がメインストリームに。テディフリースやソフトウール、フリース、キルティング、フランネルが「ブランケットのようなぬくもり」を演出。毛足のあるアウターや豊かなニットが心身を包み込む。
機能×サステナブル
再生原料やオーガニック繊維の活用が進展。ストレッチや通気、防護性など機能性と循環設計を両立させた素材開発が加速。リビルド感のあるパッチ/ダメージ表現や異素材ミックスがテクスチャーの奥行きを生む。
ロマンティックの回帰
装う歓びが復活し、レース、チュール、スパンコール、金銀糸が台頭。グラマラスとクラフトをミックスし、ベルベットはシルクやレースとのレイヤードで表情を更新。デジタル起点のドリーミーなプリントも拡充。
アニマルの再解釈
豹・ゼブラといった定番は、ブラー、グラフィティ、サイケデリック調で若々しく刷新。フェイクファーや型押しレザーで倫理性とムードを両立。

ふわもこ質感のアウターは「心地よさ」の象徴。人造毛皮やテディが量産・多用途化し、コンフォート基調を牽引。
2022秋冬:マテリアル多様化とクラシックの再構築
デニムの立体化
デニムは三次元的な表面変化で進化。二重組織やシャーリングで3D的な皺や凸凹を出し、スカルプチュアルなシルエットを形成。ヴィンテージウォッシュ×ジャカードで高低差を生むなど、見た目にも触感にも新鮮味。
毛足素材&保温テック
ロングパイルのフェイクファーやボア、機能フリース、軽量ダウン調素材が拡大。綿/超極細ポリエステル長繊維/スパンデックスのハイブリッドで、膨らみ・吸湿・通気を両立する開発も進む。日本でも発熱・高発熱わた、上質ウール混の快適設計が支持を獲得。
ツイード/ウール地の復興
ツイードやチェックの英国調が強く回帰。金属糸の差し込みや双面仕立てでクラシックを現代化。千鳥格子×フローラルなど「一布両面」の遊びも注目。グレージュ、キャメル、アースブラウンを基調に、橙や濃緑を差してアップデート。
オフィス回帰と快適正装
メリノやビス/ポリ混が再評価。ドレープとストレッチで動きやすいテーラリングへ。微スパークル糸やバブルクレープなどの細工で「きちんと×軽やか」を両立。日本の通勤ブランドも保温・伸縮を備えたセットアップを拡充。

多層レイヤーにクラシックな粗ツイードやチェックを効かせ、伝統回帰と田園ムードを視覚化。
2023秋冬:質感の衝突とレトロの再生
レザーの拡張とディテール強化
黒定番に加え、バーガンディやボトルグリーンなどカラー革、漆光、型押しが増加。ウールコートのレザーポケット、ニットへのレザーテープなど異素材の差し込みでリッチに。
シルバー・メタリックの頂点
ゴールド偏重からシルバーへシフト。銀箔のようなスパンコール、メタルヤーン使いがホリデーとデイリー双方で存在感を発揮。ストリートでも反射素材やメタリック中綿が浸透。
厚手ニットの主役化
チャンクニットがキーワード。オーバーサイズのセーター、マフラー、ケープ、セットアップが台頭。3D無縫製や発熱インナーなど日本発の技術も進化。
レースとノスタルジア
透ける黒レース、サテンのリボン、ラッフルが「クラシックな女らしさ」を更新。硬軟のミックスで現代的に昇華。
アニマルの熱再燃
豹柄がSNSで再炎上、年明けにはセレブ着用でアウターがバズ。ヘアカーフ風の起毛感やフェイクファーで高見えに。

極太糸や縄編み、ケープ型で手仕事の温かさを可視化。冬の「囲炉裏感」を服で実現。
2024秋冬:クラシック刷新と質感アップグレード
剛健レザー×誇張シルエット
XXXLシルエットの波に乗り、硬質レザーでワイドショルダーや重量感のある外套を形成。定番のロングコートやフライトJKに肩・袖の誇張で新規性を付与。日本のデザイナーズも染めや漆光表面で技巧を凝らす。
ニットのレイヤリング再考
ケープやポンチョが復活。粗編×細番手、ニット×シルクなど異素材重ねでリズムをつくり、カシミヤやアルパカに植物系混紡で軽やかさ・通気をプラス。日本では発熱・機能糸のアップデートが継続し、和要素の袖型も提案。
人造ファーの主役化
倫理性と華やぎを両立するフェイクファーが高品質化。染色や編立技術でリアルを超える表現に到達。立体パイル糸で毛皮の豊かさを再現する技法も注目。日本の百貨でも高級フェイクの支持が拡大。
立体装飾と極繁主義
羽根、立体リボン、フリンジなど3D装飾が台頭。スパンコールは春夏から連続して高水準。黒×漆、銀糸×グラデーションなどで「ミニマルな線×豪華な表面」を共存させる。再生アルミ製スパンコール等、サステ要件も加味。

構築的なレザーにハイライト面を重ね、未来感と質感を両立。フォーマルからデイリーまで輝度のコントロールが鍵。
2025秋冬:5大テーマで“素材の頂”へ
① シアリング/レザー一体(皮毛一体)の熱波
耐久レザーと柔毛を融合した「皮毛一体」が引き続きコア。内側のボアを見せる襟・袖見返しなどでノーブルかつリラックス。ハイエンドはサステナブル由来の毛皮代替を全面採用し、倫理とラグジュアリーを共存。マス市場では手の届く価格のボアJKがヒット。
② 田園ムード(伝統回帰ファブリック)
粗ツイード、人字、チェックといった英国田園調が本格回帰。コーデュロイとのブロッキング、透かし編みの差し込みで手仕事感を増幅。日本でも和柄チェックを現代コートに落とし込み、スクール調スカートやケープが人気に。
③ ロマンティック精緻(極繁ディテール)
重厚な刺繍、立体フラワー、ビーズ&スパンコールで「視覚×触覚」の饗宴。ミニマルな線に豪華表面を載せる新・贅沢主義が台頭。東洋モチーフを高度なステッチで翻案する動きも顕著。
④ 兽柄プリント(ワイルドの復権)
大胆配色と拡大スケールでアニマルが再沸騰。クロコ型押し、スネーク、抽象化レオパードなどバリエーションが拡張。テキスタイルの選びでハイエンドはジャカード等の格上表現、マスはプリント/エンボスで手軽に。
⑤ 人造ファー(エコ・ラグジュアリーの新寵)
フェイクファーはもはや代替ではなく「新しい贅沢」。コートから小物まで急拡大し、技術革新で手触り・保温・見映えが一段と向上。日本の高級百貨でも「スマートラグジュアリー」として主力訴求へ。

キャメルやクリームのボア外套は「皮毛一体」や高品質フェイクの象徴。豊潤な表面にエシカルの価値観を重ねるのが2025年の気分。
総合分析:進化の軸とハイエンド vs マスの相違点
継続する「ぬくもり」軸
2020–2021の巣ごもり期からポスト期まで、保温・触感快適は不変のドライバー。ボア/フェイクファー、厚ニット、キルティングは毎年の定番となり、価格帯を超えて共通言語に。日本は寒冷・通勤文化ゆえ、上質ウールや発熱テックの比重がさらに高い。
ラグジュアリー素材の循環回帰
ベルベット、サテン、スパンコール、金銀糸は景気や気分の波に呼応して周期的に高まる。ハイエンドはオートクチュール級の刺繍/シルクジャカードで先導、マスは機械刺繍やパネル使いで量産適正に落とし込む。
クラシックの現代化
粗ツイード、チェック、コーデュロイ、レースなどの古典は、双面織や機能糸、現代的シルエットで刷新。日本では伝統織物の要素と欧州クラシックの折衷で独自のレトロモダンが開花。
サステナブル×テックの定着
再生繊維、植物染、フェイクファー等が周縁から主流へ。ハイエンドは「無リアルファー」を宣言し新素材を先行採用、マスはコンシャスライン拡大で普及を担う。発熱、吸放湿、軽量保温などの機能は販売訴求の柱に。
ハイエンド vs マス:違いは“スピードと密度”
ハイエンドの特徴
- 新素材・新工法を最速で採用(例:高機能スパンコール、双面織、立体装飾)
- 手仕事密度と素材原価で差別化(高級毛皮代替の高度表現など)
- トーンは控えめでも表面はリッチに
マスブランドの特徴
- 1–2シーズン遅れで量産適正化(プリント化・簡易刺繍化・合成レザー化)
- カラーや柄など参入障壁の低い要素は同時多発
- サステナ要件は横並びで早期に標準装備化
年度別トレンド実例(2020–2025)
2020秋冬
- サテン:Gucci ブルーサテンブラウス/Huishan Zhang パープルシアードレス/Fendi サテンヘアバンド
- ベルベット:Giorgio Armani ベルベットスーツ/Celine 黒ベルベットコート/Gucci レトロセット
- フェイクファー:Stella McCartney ブラウン/Vivetta グリーンカモ/Burberry トレンチ
- コーデュロイ:Prada セットアップ/日本・東レ PV推奨「コーデュロイ+チェック」
2021秋冬
- テディ/ボア:Max Mara テディコート/Snidel テディショート
- 機能・環境:Stella McCartney 再生ウールKN/Uniqlo +J 再生ナイロンダウン
- スパンコール・金属光:Dolce & Gabbana ミニドレス/Versace メタリックD
- レース&チュール:Gucci レース×ウールコート
- アニマル:Roberto Cavalli 豹柄シルクシャツ/WACKO MARIA 豹柄ニット
2022秋冬
- 3Dデニム:Diesel 立体デニムJK/Sacai プリーツデニムSK
- フェイクファー&ロングパイル:Givenchy ロングパイル/Uniqlo +Theory ボアJK
- ツイード:Chanel ツイードセット(黒白格子)/Zara 粗ツイードショート
- 双面ビーバー:Loewe 千鳥×花柄の両A面コート
- 職場回帰:Theory メリノセット/Untitled ウール混通勤セット
2023秋冬
- レザー:Hermès 黒トレンチ/Zara カラーレザーライダース
- メタリック:Chanel 銀刺繍ジャケット/Marine Serre スペーススーツ
- チャンクニット:Missoni カラーニット/Isabel Marant OVニット/Uniqlo 3D無縫製D
- レース&レトロ:Dior 黒レースD/Valentino 大リボン×ベルベット
- アニマル:Dolce & Gabbana 豹セット/NEIGHBORHOOD ゼブラ中綿
2024秋冬
- ハードレザー:Alexander McQueen 構築レザーCT/Sacai レザー軍装ブロック
- ニットケープ:Chloé ニットポンチョ/Uniqlo カシミヤケープCD
- 人造ファー:Miu Miu フェイクファーCT/Stella McCartney 立体パイルCT
- 立体装飾:Louis Vuitton 羽根×チュール/Prada 立体リボンD
- 極繁:Gucci グラデスパンコールD/Valentino 黒スパンコールフリンジ/Anrealage 分解可能スパンコールJK
2025秋冬
- シアリング:Prada 厚手ファーCT(ヒール合わせ)/Miu Miu シアリングショール
- 田園粗呢:Burberry コーデュロイ×粗ツイードCT/Missoni カラー縄編みKN
- ロマン刺繍/極繁:Gucci 銀スパンCD/Dries Van Noten シルク流蘇OP/SARAWONG 敦煌花刺繍
- 兽紋:Balmain クロコ型押しSK/Khaite 豹タイト/Schiaparelli デニム蛇紋PT
- 人造ファー:Alaïa 先鋭フェイクCT/Miu Miu レトロフェイク/Sacai デコンフェイクJK
ビジュアル・セレクション(トレンド対応ルック)

全身にスパンコールを敷き詰めたドレス。軽やかで眩い表情は、2020年に高まった「光沢・金属糸・サテン」群のエッセンスを象徴。

ツイード/チェック×ケープの組み合わせは、2020AWの「学院調」「粗ツイード」の実用化の好例。

柔らかな毛並みと構築的なシルエットの両立。2020年以降の外套トレンドを牽引した代表像。

艶のある黒を都会的にまとめた装い。レザー、サテン、メタルの多素材ミックスが2020年代の質感衝突を体現。